夢と過去は似ている。
どこかに確かに在ったもの。それでもひといき、またひといきと呼吸を繰り返すたびに、薄れておぼろげになっていくもの。遠ざかっていくもの。おぼろげな記憶の中で、果たして何が起こったかは、具体的には一切思い出せずに、確かそれはしあわせだったような。くるしかったような。感情だけがいつまでも滞留し続けるもの。実際のそれよりも遥かに長い時間を繰り返すもの。長い時間に自分ひとりがかたくなに座り込んでいるのか、立ち上がる気力がないのか、もしかしたら、その時間にもう少しだけ浸っていたいのか。夢のような過去。
夢も過去も本当は(本当は?(笑))存在しないのかもしれなかった。だって思い出せないし、誰かに証明することだってもちろんできない。私が忘れてしまえば消えてしまうただの夢だった。じゃあなんで、私は何度も同じ夢を見続けるのだろう。目が覚めた時の喪失感は何だろう。どこにいるの?なにをしているの?忘れないで、これが夢であると、私だけに目覚めさせないで。
目が覚めて、温かい毛布を巻き込んでいた。犬のトイレは清潔で、暖房が少し効きすぎている。私は夢から覚めて、ひとりきりではなくなっていた。
きっといつか、いまわのきわで、ひといき、またひといきと死が近づくとき。真っ白な天井を眺めながら、薄ぼけていく全てを思いだした時に、今この瞬間が幸せな過去になることを願っている。願っているんだよ。
私は今日も過去に囚われながら、いつかの夢を生きている。
