くずれたプレゼント箱

たくさんのプレゼントをもらってきました。

ある人からは緑の小包み。中身は甘い甘い柿や、生い茂った木々の奥にある小さな滝と、そこに住まうサワガニでした。

ある人からは、桃色の大きなおもちゃばこ。欲しくて欲しくてたまらなかった自動販売機のジュース。凍り付いた橋の上での笑い声。享楽的なふうせんだらけの毎日でした。

ある人からは、落ち着いた色合いの、しっかりとした造りの小箱をもらいました。小さく見えても中身は案外たくさん入るようで、まず初めにとっても綺麗なダイヤのネックレス。それから、自分をわたしとして見つめなおせるやさしい鏡。リボンをつけてもよいということ。おいしいごちそうたち。こんな小箱にこれだけ入るものなのかと、わたしは驚きました。

ある人からは、ある人からは、ある人からは…こんなことを繰り返して、わたしは何も返せないまま、もらった順番にプレゼント箱を積み重ねました。この箱たちは、わたしがこのいじわるな世界で生きるための大切な土台になってくれました。それはとても心強く、作り方も至って簡単で、つまりは「もらったものを、時系列順に積み重ねる」ことでした。

しかしこのやり方には不備もありました。大きくわたしの呼吸が揺らいだとき、貰いすぎて塔のようになったその箱たちはその揺らぎに耐えられずいっせいに崩れ落ち、ばらばらになって、正しく積み上げる順番が分からなくなってしまいました。

ある箱が目に入りました。一番気に入っていた箱でした。中身は青い花のヘアピン。覚えています。しかし箱を開けると、中身は変わっていました。箱の底が見えません。手を伸ばせば何かがつかめそうで、しかし私の手は空を切ってただの空箱をまさぐりつづけるだけです。あほらしい。あほらしい。あほらしい。あほらしい。あほらしい。なみだが出ました。

いちばん上に乗せる箱はどれだっけ。いまのわたしの毎日を、助けてくれるプレゼント箱はどんな色で、どんな形をしていたっけ。どんな喜びをくれるんだっけ。過去に戻ることはできないから、忘れてしまった「時系列順」に積みなおすことはもう難しいかもしれない。

だから今度は、いちばん上の、今一番そばにあるプレゼント箱をみつけて、その中身を信じること。今度は大切な何かをなくさないように、たいせつにたいせつに扱うこと。そこから思い出した順にほかの箱も積みなおせばいい。

わたしは必要なことにずっと気づけずにいました。プレゼント箱をもらったらするべきことは?たいせつにあつかう、たくさんあそぶ、なんどもとりだす、しまう…そうじゃなかった。

プレゼントをもらったら、わたしもプレゼントを返さなければならなかった。なんでずっと気づけなかったんだろう。ぐちゃぐちゃになった時系列の中で、わたしはようやく大人になりました。

わたしは大人になりました。

わたしは大人になりました。

わたしは大人になりました。

原稿の締め切りが明日なので、仕事をしようと思います。