アナルのとんぷく

 例えば、お腹を下したとき、それは出先のミスター・ドーナツで、不幸にもトイレには先客がいた。普段ならば、先客のようが終わるまで待つ、というのがおトイレ事情の定石と言えるが、腹を下しているときはそうはいかない。
 アナルは刻一刻と限界を訴え、下腹部の緊張感はさながら……。上手いことを言う必要はあるまい。明晰な読者諸君はもうわかっているはずだ。先客に伝えるべきだと。「限界だ」と。
 どんどんと戸を叩く。これは一般には「入っていますか?」という問いかけであるが、時と場合によっては、「早く出てくれ」という暗黙の訴えになりえる。今回のそれは後者だ。ドンドン。ドンドン。フルコンボだドン。……そうして、先客はやや不満げな表情を浮かべながらトイレを後にする。
 読者はここで、こう思うだろう。「お前が長い間、トイレにとじこもってんのがわりーだろうが。どうせトイレでしょーもないツイートでもしてんたんだろ?」。……これではいけない。このとらえ方は愛の感度を高める上では大きなオトシアナ、である。
 我々は愛さねばならない。誰を? 名も知らぬ、トイレの先客をだ。我々の「ドンドン」に応じて、トイレを後にしてくれたその意思に、行動に、愛を見出さなくてはならない。それが難しければ、ためしに先達が去った後のトイレで一度、深呼吸をしてみるとよい。
 さて、臭いはどうか? 「ゲリくさい」。……そう。先客もまた、腹を下していたのだ。おわかりいただけただろうか。以上が、他者へ愛を向けるための至極簡単なステップである。

(完)ー製作・著作:ゲーリッヒ・フロムー